建築・間取り

戸建て住宅のトレンドとこれからの家づくり

執筆者
増永 遥

新型コロナウイルスの流行を機に、戸建ての人気が高まっていることをご存知でしょうか?働き方や在宅時間の変化により「子育て環境を重視したい」「広い家に住みたい」など、住宅への価値観が変わった方も多いでしょう。
そこで今回は、今後の戸建て住宅のトレンドをご紹介します。これからの家づくりのポイントを知り、家族が快適に暮らせる住宅について考えてみましょう。

住宅の歴史と変遷

人類が家を建て始めたのは、約1万年前からと言われています。それまで人類は食料を求めて各地を移動する生活をしていました。しかし、稲作を始めるようになると、同じ場所にとどまる必要があるため、雨風をしのぐことを目的として竪穴式住居を建てました。これが、人類の住宅の始まりとされています。その後、日本にも稲作が広がり「家を建ててその土地に定住する」スタイルが定着していったのです。

かつての日本では、台所を北側の薄暗い場所に設けた間取りが一般的でした。しかし、昭和30年代に公団住宅の建設が進んだことを機に、台所は住宅の南側の明るい場所に設置されるようになったのです。そして、食事室と台所が一体になった「ダイニングキッチン」(DK)がトレンドになりました。

平成に入ると、より豊かな住環境が追及され、一戸あたりの延床面積が広くなっていきます。居間・食事室・台所をワンフロアに集約した「リビングダイニングキッチン」(LDK)の間取りがトレンドになり、家族がリビングに集まって一緒にテレビを見るといったスタイルが定着しました。

そして最近ではスマートフォンやパソコンが普及したことにより「家族が個々の時間を大切にしたい」という思考が強まりつつあります。LDK内に畳コーナーを設置したり、書斎コーナーを設けたりするなど、家族とのつながりを感じつつも、それぞれが自分の空間を楽しめる住まいが求められていると言えるでしょう。

現在の住宅市場と課題

2020年、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、私たちの生活様式は大きく変化しました。外出自粛やテレワークの導入などにより在宅時間が長くなったことにより、住まいの設備や環境をより良くしたい、という意識が高まり、一戸建ての購入を検討する人が増加しています。

今後も新型コロナウイルスの影響は長く続くことが考えられます。生活環境が大きく変化する今、住宅を購入する際は、どのような点に気を付ければ良いのでしょうか?ウィズコロナ時代の戸建て選びのポイントを以下にまとめました。

・都市部の感染リスク
・働き方と在宅時間の変化
・子育て環境
・住宅費の支払い

都市部の感染リスク

政府は、新型コロナウイルス対策として「密」を避ける行動を推奨しています。しかし、都市部は人口が多く、人が集まるイベントも多数開催されているため、どうしても感染リスクを避けられません。

そこでおすすめなのが、地方や郊外に一戸建てを持つ方法です。地方なら都会のような人混みはあまりなく、過密・密集を避けられます。さらに、土地も安いので、都市部に家を建てるときと同じ予算で、より広い家を建てることが可能です。

働き方と在宅時間の変化

新型コロナウイルス感染拡大の影響により、テレワークが急速に普及しました。在宅時間が長くなると、仕事に集中できるスペースや、ひとりの時間を過ごせる個室が必要になってきます。今後もテレワークを行うことを前提とするならば「長時間家にいても快適に過ごせる住居環境」を意識して住宅づくりを行うことが大切です。

たとえば、国土交通省によると、夫婦と子どもの4人家族の場合、快適に暮らせる家の面積は、95~125㎡程度とされています。間取りは、家族それぞれのプライバシーを確保できるよう、3LDKもしくは4LDK以上がおすすめです。

ただし、部屋数を重視すると、各部屋が狭くなってしまうこともあります。土地の広さや、予算の都合で延床面積が限られているときは、間仕切りでひとつの空間を区切る方法も良いでしょう。個室でなくても、間仕切りがあれば、家族が適度な距離感を保てます。

子育て環境

テレワークが定着すれば、子育てと仕事の両立という問題が出てきます。外出自粛の影響で、公園や児童館の利用制限など、子育て環境も大きく変わりました。これまでは夫婦のどちらかが子育てを担っていた家庭でも、在宅勤務によって子どもの横でリモート会議をしたり、仕事の合間に勉強を見たりするなど、子育てのスタイルも変わってくるでしょう。

そのため、これから戸建ての購入を考えている場合は「仕事」と「子育て」を両立できる家づくりが大切です。庭やインナーテラスを設ければ、外出しなくても子どもがのびのびと遊べて、仕事の合間に気分転換もできますね。

住宅費の支払い

今回、新型コロナウイルスの影響により、さまざまな業種が打撃を受けました。なかには、解雇や給料ダウンで住宅ローンが支払えなくなった人もいます。今後一戸建ての購入するなら、支払い計画に無理がないかどうか、しっかりシミュレーションしておくことも大切です。

一戸建ては賃貸と違って「資産になる」というメリットがあります。場合によっては、賃貸と同様、もしくはさらに安い費用で、より広い家を手に入れることも可能です。一方で、固定資産税や修繕費用など、ローン以外の支出が発生することも覚えておきましょう。内装や間取りにこだわることも必要ですが、無理なローンを組むと、生活を圧迫するかもしれないため、入念に資金計画を立ててから購入することをおすすめします。

これからに向けた国の取り組み・方針

日本では、地球温暖化や環境保護の観点から「ゼロエネルギー住宅」の普及が推進されています。この取り組みは2015年に開催されたパリ協定により、各国が温室効果ガスの削減を求められたことがきっかけとなって始まりました。2020年現在、国は一定の省エネ基準を満たしたゼロエネルギー住宅を建てた人に対して、費用の一部を補助する制度を設けています。

また、新しい取り組みとして、日本の「スクラップ&ビルド」の流れが見直され始めました。スクラップ&ビルドとは、古い建物をすぐに壊して、新しい建物を造ることを言います。家を解体するときは大量の廃材が生まれ、建築時にも材料を要することから、環境に悪影響を及ぼすと判断されたからです。

スクラップ&ビルドが見直されるもうひとつの理由としては、少子高齢化と空き家問題があります。人口が減っているうえに、若い世代は都市部に引っ越してしまうため、地方や郊外の空き家が増え続けているのです。そこで政府や自治体は、空き家バンクの活用や、住宅リフォームの際に補助金を支給するなど「長く住める家づくり」と「地方創生」を目指して、さまざまな取り組みを始めています。

今後の戸建て住宅と生活

新型コロナウイルスの流行を機に、戸建て住宅を取り巻く環境は大きく変わりました。家族の在宅時間が長くなり、これまでよりも住宅の「質」が重視されつつあります。テレワークが進んだことで、会社の近くに住む「職住近接」の考え方も変化し、今後は地方や郊外に一戸建てを建てる人が増えていくことも予測されます。

今回のコロナショックでもわかる通り、今後も社会情勢は変わる可能性があります。これから戸建てを購入する際は、働き方やライフプランの変化にも柔軟に対応できる家づくりが重要です。内装や設備だけでなく、リノベーションが可能かどうかなど、構造面も確認しておきましょう。また、家は住んでからでもリフォームなど手を加えることはできますが、周辺環境は変えられません。駅や学校までの距離、病院の有無を事前にチェックしておくことをおすすめします。

まとめ

時代とともに人々の生活様式は変わり、住宅のトレンドも変化していきます。新型コロナウイルスが収束しても、テレワークや新しい生活様式が定着し、私たちの暮らしは以前とは違ったものになると言えるでしょう。これからは「仕事」と「家族との時間」との両立を念頭に置きつつ、ライフスタイルや社会情勢の変化も対応できる家づくりが大切です。