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“台所”について考えてみる

執筆者
株式会社トムス フィールドマーケティングチーム 寺島知津

 昨年の熊本地震により、祖母の家が大きな被害を受け建て直しをすることとなりました。祖母の家は築100年以上が経っており、太い大黒柱や梁、広い土間、親せき一堂が集まって宴会をした二間続きの和室など、まさしく古き良き時代の古民家です。娘時代を過ごした田舎の家について、母はよく「台所」を語ります。当時の台所は玄関から続く土間の一角にあり、祖母が家族のために黙々と三度の食事の支度をしていた姿が目に浮かびます。

 「台所」が「キッチン」と言われるうようになり、「キッチン」は急速に「リビング」と融合。もはや女性が孤独に食事を作る作業場ではなく、家族の中心に「キッチン」が存在するようになりました。平成25年住宅・土地統計調査(総務松統計局)の静岡県のデータをみても、台所のタイプは1971年以降「食事室・居間兼用(オープンキッチン、セミオープンキッチンなど)」が増え、「独立の台所」や「食事室兼用(ダイニングキッチン)」が減少。ここ最近の新しい住宅はおよそ8割が「食事室・居間兼用」のタイプとなっています。

 「台所」の形が変化している背景には、ライフスタイル、食生活の変化や女性の社会進出があると言われています。1970年代は俗にいう日本の食習慣の転換期で、ファミリーレストランやファーストフードが生活の中に入ってきたのもこの頃です。SBSデータバンク静岡市調査によると、1975年~2015年にかけて「手間をかけずに短時間で料理するほう」とする人が右肩上がりに増え、「手間ひまかけて料理するほう」との差が広がっており、確かに食事や調理に対する意識が大きく変化していることがわかります。今後もライフスタイルや意識の変化とともに、「台所」は形を変えていくこととなるでしょう。

 ちなみに我が家は少数派の「独立型」です。料理に集中できたり、台所の音がリビングに漏れにくい点が評価できますが、何よりも母と二人で我が家の男子たちへの愚痴をこぼしながら食事の支度ができるのも「独立型」ならではと思うのです。